理想の暗黒面

理想はどこから生まれるか?――現在の不足感からだ。

人間はありのままの現実に不満だから理想を必要とする。

そして理想とは奪うものである。

理想は今ある現実を犠牲にして将来の約束を与えるが、捧げた現実は戻らず約束も果たされることはない。

もし理想が最高の状態のことだとしたら、人には理想を実現する能力などない。

なぜなら人は己自身を知らないからだ。

己自身を知らない者に自分の最高の状態がわかるはずがない。

欲していることが本当に自分にとっていいことなのかさえ人間にはわからないのだ。

そもそも生きている人間は定常状態になることもない。

実現不可能と知っても人は理想の実現への期待を捨てることができない。

理想を見続けると現実が見えなくなるし、そうなることをこそ人は望むからだ。

悪魔は人を欺くために天使の姿をしているのだろう。

理想もポジティブな言葉に隠れて現実の上に詛いをかけている。